電子工作

ハンドヘルドダイナモメーター、理学療法士がDIYしてみた。~リハビリ現場の“あったらいいな”を電子工作で~

電子工作

〜圧力センサーを使ったハンドヘルドダイナモメーターのDIY〜

理学療法士(PT)としての臨床経験と電子工作を組み合わせて、**ハンドヘルドダイナモメーター(HHD)**の試作品を自作してみました。市販のHHDってかなり高いですよね?よく見るものだと10万円ぐらいします。DIYしたら安いのではないかと思い、試しに作ることにしました。市販の高価なHHDに比べて低コストで、現場で使えるかもしれないポテンシャルを感じさせる出来になりました。

「電子工作って何?」という方はこちらの記事

1. 作ったもの

今回自作したのは、圧力センサーを応用したHHDのプロトタイプです。装置は大きく分けて「センサー部」と「基板(表示)部」に分かれており、センサーに圧が加わると、力の大きさがLCDに表示される仕組みです。

表示されるのは現在の圧力値これまでの最大圧力値。電源投入後は数秒のキャリブレーション時間を待てば、すぐに使用できます。電源はどこでも手に入る**角型乾電池(9V)**で動作します。

2. 使用した材料

使用した主な電子部品は以下の通りです:

  • Arduino uno(信号を処理する制御基板)
  • ロードセル(100kg対応の圧力センサー) ×2
  • HX711(信号変換器) ×1
  • LCDディスプレイ(液晶画面) ×1

その他に、木の板やスポンジ、ボルトナット、ジャンパワイヤーなども加えると、総額は約1万円。ESP32など安価なマイコンに変更したり、設計を工夫すれば、6,000円程度に抑えることも可能だと感じました。

3. 制作の難易度

電子回路やプログラミング自体は、chatGPTなどのAIを使用すればそれほど難しくありません。むしろ時間がかかったのは、電子回路・プログラム以外の部分です。
特に以下の点:

  • パッド素材や形状の検討
  • センサーを組み込んだ状態での全体の強度確保
  • 手に持てるサイズ感と取り回しの良さ

特に「持ちやすく」「壊れにくく」「測定精度を保つ」の両立には悩まされました。

4. 苦労したポイント

素材選びの難しさ

ホームセンターでパッド部分に使えそうな素材を探しました。しかし、厚すぎず薄すぎず、硬すぎず柔らかすぎず、ほどほどの価格で固定しやすくて…。これを探すためにホームセンターを2時間ほどうろうろする事になりました。

結局完璧なパッド用素材は見つからず、筋力低下のある症例用という方針で妥協しました。ただ、市販品でも筋力が強ければ計測の時は結構痛いので、こんなものかもしれません。

センサー選択のジレンマ

大きなロードセルを使えば固定用のねじ穴も増えて頑丈になりますが、その分かさばって手持ちでの使用が困難になります。一方、小型のロードセルでは強固な固定が難しくなるというトレードオフ…。
最終的には中型サイズのロードセルを使ってバランスを取る形に落ち着きました。

5. 使い勝手は?

実際に使ってみると、ぱっと置いてすぐ測れるのが非常に便利。今回の試作では以下の情報を表示するようにしました。

  • Max:現在の圧力値
  • weight:今までの最大値

少しプログラムを追加すれば、ピークまでの到達時間やパソコンとつないで測定中のグラフ表示なども可能です。
市販の高級HHDでしか得られないような情報も、ちょっとしたコードの追加で取得できるのが自作の魅力です。

今回使用したHX711という信号の変換機(圧力センサー用のアンプ)は数百円の安いもので動作は遅めです。筋出力のピークまでの時間などを精密に計測するなら、HX711ではなくNAU7802などの高精度アンプに交換する手もあります。差額は1,000円程度です。

6. 使用時の課題

  • 被験者の筋力が強いと支えるのが大変。特に10kgを超えると女性スタッフでは支えきれないことも。
  • ただし、女性スタッフでも何回かやると20kg以上でも測れるようになるので、慣れもあるかもしれません。
  • センサーに対して圧力が垂直にかからないと、測定値がずれてしまう。

測定時の筋力問題は市販のHHDと同じ悩みですね。手持ち型の構造である以上、筋力との戦いは避けられません。バンドで固定するなどの方法で回避できます。

また、圧力が垂直でないと測定値がずれてしまう点ですが、お金をかければ解決する事は出来ます。センサーを増やして回路を変更すれば、横方向の力をキャンセルして全体的な測定精度も上げることが出来そうです。しかし、テーマが「ほしいものを安く」なので、今回の試作品はこれで良しとしておきます。

7. 全体を通しての感想・まとめ

PTとしての感想と、単純に電子工作をやった感想を分けて書きます

・電子工作をやってみたPTとしての感想

電子回路やプログラミング自体は意外と何とかなるものの、使いやすく、安全で、現場で使える形にまとめるのは想像以上に手間がかかりました。それでも「こういうのが欲しい」と思った機能を、現場の人間が自分で実装できるのは非常に画期的です。ちょっとしたアイデアも、電子工作とプログラミングを少しかじれば形にできる可能性があると感じました。

今回は初めてHHDを使ってみましたが、握力計のように気軽に下肢筋力を測れるのは本当に便利で、施設に一台あるといいと思えるほどでした。将来的には、握力計のように普及してほしいと感じます。

・電子工作をした一個人としての感想

率直に「工学系の人ってすごい」と思いました。たった一つの試作品でも、安全性・精度・強度・使い勝手・コストなど、多くの要素があり、構想から設計、加工、配線、コーディング、テストまで膨大な工程があります。車やスマートフォンのような完成度の高い製品が高価なのも納得です。

今回の試作はあくまで第一歩ですが、「ちょっと測りたい」「市販品を買うほどでもない」といったニーズに対し、電子工作は小回りの効く有力な手段になり得ると感じました。今後も現場に役立つものを作っていけたらと思っています。

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