JASP統計実践(JASP・R・Python)

【JASPでベイズ】たった40秒 JASPで対応のあるt検定+BFの頑健性プロット+記述統計

JASP

この記事の内容

この記事では無料の統計ソフト「JASP」を使用して、ベイズ推定による対応のあるt検定を実行し、事前・事後分布プロット+BFの頑健性プロット+記述統計までを一気に行う方法を紹介します。

また検定結果を外部出力する方法や学会・ジャーナルでの記載例も併せて紹介します。

JASPは操作がシンプルなので、初心者でもすぐに使いこなせます。
※この記事ではJASP バージョン0.95.4を使用しています。

まずはこちらのキャプチャ動画で流れを確認(約40秒)。

このようにたった数十秒でベイズ推定による対応のあるt検定からグラフ描画まで一気に行えます。

では具体的なやり方を見ていきます。

対応のあるt検定の実際のやり方

全体の流れ

データの準備

データの読み込み

データ列とグループ列を指定してt検定の実行

各種プロットと基礎統計量の描画

データの準備

まず、検定に使用するデータを準備してください。

Excelなどで作成し、CSVまたはExcel形式で保存するのが簡単です。

用意するのは下のような形式のデータです。

検定するには、対応するデータが横並びになったデータセットが必要です。

注意点

JASPは半角英数で安定して動作するようになっています。日本語や全角英数字は、文字化けやエラーの原因になります。データシートは半角英数で作成してください。

列名はdata1/data2にしましたが、好きな列名を設定することが出来ます。before/afterなど、あとで見たときにわかりやすい名前にしてください。

データに関する注意

なお、ベイズ統計での対応のあるt検定は、頻度主義のt検定(つまり普通のt検定です)と同様に正規分布を仮定しています。ベイズ統計だからと言って、データのあらゆる分布に対応できるわけではありません。

もう誤解しやすいポイントがあります。

対応のあるt検定の場合、正規分布を仮定しているのは二つのデータの差です。
例えば以下のようなデータセットがあった場合、正規分布が仮定されているのは「介入前後の差」のデータです。
※二つのデータの差は統計処理の際にJASPが内部で自動的に計算してくれます。

介入前データ介入後データ介入前後の差
143
671
462

ヒストグラムなどを確認してあまりにも正規分布からかけ離れている場合、正規分布を仮定しない統計手法を検討します。

データの読み込み

JASPを起動するとこんな画面からスタートします。

左上の「三」メニューをクリックします。

「開く」→ 「コンピュータ」→「参照」からファイルを選んで読み込みます。

データが正常に読み込めたか確認します。

検定の実行

上部メニューのt検定からベイジアンの対応のあるサンプルのt検定を選択します。

次に変数を右枠内へドラッグ&ドロップします。

計算が終わり次第、右側の出力エリアにBF(ベイズファクター)が表示されます。

この後は、各種プロットと基礎統計量の出力に移ります。

パソコンの性能によっては結果が表示されるまで少し時間がかかるかもしれません。(数十秒~数分)

設定エリアのメニューで、必要に応じて以下のチェックボックスにチェックを入れてください。

・分布のグラフが必要であれば「事前分布と事後分布」

・事前分布についての頑健性についてのグラフが必要であれば「ベイズファクターの頑健性チェック」

・基礎統計量の表が必要であれば左下の「記述統計量」

対立仮説と事前分布の設定について

対立仮説については初期設定にしておくのが無難です。初期設定では、介入や暴露により計測値が増加・減少のどちらにも動く可能性も考慮するようになっています。

理論上データが増加(または減少)のどちらかしか動きようがない場合は、以下のどちらかを選択します。
グループ1>グループ2

グループ1<グループ2

先行研究の情報を使って事前分布をカスタマイズする機能もあります。これには決まった手順があるわけではなく、分野やジャーナルによって扱いが異なります。実際、専門家に聞き取り調査を行っても、専門家間で事前分布の見解が割れることが報告されており、今のところ発展途上のトピックと言えます。(2026年7月現在)

この記事ではデフォルト設定(Cauchy分布, r=0.707)で解説しています。

もし変更の必要がある場合は、事前分布タブのインフォームドを選択して、手動で設定してください。

プロット・表の出力と注意点

事前・事後分布のプロットでは95%信用区間が95%CIと記載されています。
ここは注意が必要です。

ベイズ推定で使用される95%信用区間は95% Credible Interval です。
一方古典的統計手法における95%信頼区間は95% Confidence Intervalです。
信用区間も信頼区間も頭文字だけ取れば95%CIとなり、区別がつきません。

そのため、ベイズ統計で使用される信用区間を報告するときは、95%CrI(または95%BCI)と記載するのが一般的です。グラフを使用する場合は、修正してから掲載するようにしてください。

ベイズファクターの頑健性チェックと基礎統計量の出力は以下のようになります。

ベイズファクターの頑健性チェック

記述統計量

検定結果やグラフの外部出力

検定結果やグラフは、簡単に画像やPDFとして保存できます。
論文・レポート・プレゼン資料への活用もスムーズです。

表を外部出力する場合

表のタイトルをクリック → 「コピー」を選択しPowerPointやExcelに貼り付けます。貼り付けた後に編集もできます。

グラフを外部出力する場合

グラフのタイトルをクリック → 「コピー」を選択してPowerPointなどに張り付けてください。
メニューから「名前を付けて画像を保存」を選択して、グラフを好きなフォルダに保存することも可能です。

結果をまとめて外部出力する場合

左の「結果」をクリックします。
メニューから「結果のエクスポート」を選び、好きなフォルダに保存します。
保存形式はPDFとHTML形式が選択できます。

学会やジャーナルでの記載例

この節では実際に学会やジャーナルで発表をする場合の記載例について紹介します。ベイズ統計の結果を論文に書くとき、自己流で書くと査読で落とされる原因になります。

現在、世界基準で信頼できるガイドラインは、アメリカ心理学会(APA)のJARSガイドライン、そして2021年に世界的権威のあるNature誌(Nature Human Behaviour)で発表された『BARG(ベイズ分析報告ガイドライン)』です。

今回は、この国際基準を参考にした『ベイズ推定の対応のあるt 検定』の記載テンプレート(日本語・英語)を用意しました。ご自身の解析結果の数値に置き換えてご利用ください。

原典を参照したい方用にリンクを置いておきます。

APA STYLE
アメリカ心理学会が出している論文の書式のガイドラインです。以下のリンクはベイズ推定に関するチェックシートへの直リンクです。

APA STYLEでの報告のチェックシート

Nature Human Behaviour(Natureの姉妹紙)のBayesian Analysis Reporting Guidelines(BARG)
ベイズ統計の大家であるJohn K. Kruschkeが作成したベイズ推定の報告についてのガイドラインです。下のリンクはチェックリストへの直リンクです。

Table 1 List of key reporting points for the BARG

日本語版(英語版は下の方にあります。)

方法(Methods)

対応のある2条件間の平均値の差を検証するため、各対応データの差分が正規分布に従うと仮定し、ベイズ対応のあるt検定(Bayesian paired samples t-test)を行った。分析にはJASP(Version 〇〇)を使用し、計算には数値積分による正確な近似を用いた(MCMCサンプリングは不使用)[Step 2-D]。事前分布には、JASPのデフォルト設定であるCauchy分布(scale = 0.707)を割り当てた。これは事前知識として一般的な中程度の効果量を想定したものである[Step 1-C]。

結果(Results)(差があることが支持された場合)

ベイズ推定による対応のあるt検定の結果、代替仮説(2条件間に差がある)を支持する極めて強い証拠が得られた(BF₁₀ = ○○)[Step 3-C]。効果量(Cohen’s dz)の事後平均は ○○ であり、95%等裾可信区間(95% Equal-Tailed Interval: ETI)は ○○~○○であった[Step 3-B]。

また、事前分布のスケール値を変化させた感度分析(Robustness Check)を行った結果、BF₁₀は512.3~481.8の範囲を推移し、事前分布の設定にかかわらず代替仮説を強く支持するという結論は頑健であることが確認された[Step 5-C]。

※95%ETIは分布が左右対称である事を明示的に記載したものです。左右非対称な分布を使用している場合は、HDI(Highest Density Interval)も検討してください。
なお、単に信用区間を記載する場合は、前述の通り「95%CrI」と記載します。

結果(Results)の記載例(差がないことが支持された場合)

※ベイズ統計の強みである「差がないことの証明」パターンです。

ベイズ推定による対応のあるt検定の結果、帰無仮説(2条件間に差がない)を支持する中等度の証拠が得られた(BF₀₁ = ○○、または BF₁₀ = ○○)。効果量(Cohen’s dz)の事後平均は ○○(95% ETI:○○~○○)であり、2条件間に明確な差は認められなかった。

英語版(折りたたまれています。以下をクリックして開いてください。)

Methods

To compare the mean difference between two paired conditions, a Bayesian paired samples t-test was performed using JASP (Version 〇〇). The paired differences were assumed to follow a normal distribution. A default Cauchy prior (scale = 0.707) was specified for the effect size. Numerical integration was used for posterior computation (no MCMC sampling was performed).

Results (差があることが支持された場合)

The Bayesian paired samples t-test provided strong evidence in favor of the alternative hypothesis (BF₁₀ = ○○). The posterior mean of Cohen’s dz was ○○, with a 95% Equal-Tailed Interval (ETI) ranging from ○○ to ○○.

※95%ETIは分布が左右対称である事を明示的に記載したものです。
左右非対称な分布を使用している場合は、HDI(Highest Density Interval)も検討してください。単に信用区間を記載する場合は、前述の通り「95%CrI」と記載します。

Results (差がないことが支持された場合)

The Bayesian paired samples t-test provided moderate evidence in favor of the null hypothesis over the alternative hypothesis (BF₀₁ = ○○, or BF₁₀ = ○○). The posterior mean of Cohen’s dz was ○○, with a 95% Equal-Tailed Interval (ETI) ranging from ○○ to ○○, suggesting no substantial difference between the two paired conditions.

まとめ

この記事では、JASPを使ったベイズ推定による対応のあるt検定について、データの準備から検定の実行、各種プロットの出力、そして学会・ジャーナルでの記載例までを一気に解説しました。

JASPを使えば、わずか数十秒の操作でベイズファクター(BF)の算出はもちろん、事前・事後分布プロット、頑健性チェック、記述統計量までまとめて出力できます。従来の頻度論的なt検定と比べても、操作の手間はほとんど変わりません。

一方で、結果を報告・記載する際にはいくつか注意すべきポイントがありました。

信用区間(CrI)と信頼区間(CI)の混同に注意する:どちらも「95%CI」と略されがちですが、ベイズ推定の文脈では95%CrI(またはBCI)と明記するのが望ましい

BARGやAPA STYLEなど国際的なガイドラインに沿って報告する:自己流の記載は査読で指摘を受ける原因になりうる

頑健性チェックを併記することで、事前分布の設定に依存しない結論であることを示せる

事前分布のカスタマイズについては、まだ分野横断的な統一見解がなく発展途上のトピックです。今回はJASPのデフォルト設定(Cauchy分布, r=0.707)を前提に解説しましたが、情報的事前分布を用いる場合は、今後の記事で別途扱う予定です。

ベイズ統計は「差がないことの証明」ができる点が大きな強みです。臨床研究や実践の現場でも、ぜひ活用してみてください。

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